島ぐらし郷土料理紀行

長崎の離島「壱岐」に郷土料理修行してきました。今は東京と島を行ったり来たりしつつ、東京の人に郷土料理を通して壱岐を知ってもらおう活動中。 職人堅気な渋い親父さん、チャキチャキの女将さん、東京から島に嫁いだ若女将と、東京っ娘akk^o^の活き物語りです。毎日いろんな旨い物や人々との出会いと発見があります。

グルメお取寄せ - 壱岐もの屋

黒い海

今日はちょっと悲しい話。

akkoは壱岐もの屋のおばちゃん達のお話しを聞くのが大好き。
袋詰め作業などの頭と神経を使わない時はおしゃべり満開。

特に漁師網元の末永おばちゃんのお話しは大好きなんだ。
いつもはお父さんとの喧嘩やおのろけ話ばかりなんだけど…。

3月末の3日間は壱岐の「磯解禁」。
普段禁漁区の磯がその三日間だけ開放されるのである。
ウニやトコブシやアワビが取り放題。
akkoは今からそれを心待ちにしている。

壱岐もの屋のおばちゃん達とも暇ができるとそのこと
を話題にしたがるよ。
漁師家元の末永おばちゃんが
「そうねぇ。今年はakkoちゃんがいるしオンチャン(お父さん)に
船を出してもらって良いとこ行こうかねぇ。」ってからakko大喜び。

でも解禁日はけっこうシケてて船を出せない時も多いんだとか。

「海はとても恐ろしい。それを漁師が一番よく知っちょるけんね。
今でも忘れられないことがあるっち。」
そうおばちゃんは語り始めたよ。

21でオンチャンと結婚したおばちゃん、
駆け落ち同然一文無しから暮らし始めたから
とにかく生活が苦しかったらしい。
シケも、多少のシケもその日は海に出ると判断したそうだよ。
舵取りはオンチャンより年いった人だったそうだけど、
沖は凄い波。
ついに、若手の船員が1人海に投げ出された。

その瞬間。

蒼い海が、真っ黒に変わるという。

そして高く青い空もたちまちの内にその海に呑まれ、
真っ黒に染まり暗黒の世界になるのだそうだよ。

そして海の慟哭は無音になるのだそうだよ。

「助けてくれー!」って若手船員の声だけはなぜか聞こえる。
もう波に呑まれて腕だけしか見えないのに。

当然ながら船にいるオンチャン達も自分が船に
へばりついているのがやっとな状態である。

空を飲み込んだ漆黒の海は、取り憑かれた死神の牙だけを
白くむき出しにする。
そして飢えたその牙で若手船員を呑み込んで去っていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

沖では無線連絡を受けた家族が船が帰ってくるのを
ただただ待っていた。
おばちゃんもその1人。

陸に降り立った船員を、その若手船員さんのお母さんが
「うちの一雄をば(海から)持ってきなさったね!?」
「うちのはどこにおると!!」と
1人1人の襟ぐりつかんで聞き回る。

何も答えられないでいると、もう足腰も立たなくなり
涙流し過ぎて目も見えないであろう気が触れたような
お母さんが「一雄は船におると?!!」と這いずって
船に向かおうとする。

ただただ涙が止まらず
「海が凪ったら探しに行くけん。」と引きずり戻す。

結局その人は見つからなかったそうだ。

未だ玄界灘の一部になっている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「どうしてそんなことがあっても漁師を辞めんと?」
とakkoが尋ねる。

「そうねぇ、我が達は漁師じゃけん。
もう50年も海と生きとるけん。」

そう言って末永おばちゃんは寂しげに微笑む。
その微笑む顔にたくさんのシワが刻まれている。
それがおばちゃんと、オンチャンと海との歴史である。

そしてその微笑みは何故か広く優しげだ。

恐ろしい自然と優しい自然とが
おばちゃんの顔に入り交じっている。

日時: 2006年01月16日 23:34

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